「案件ある?」
深夜1時すぎ、Instagramに届いたDMは、どこにでもある副業の誘いにしか見えなかった。
送ってきたのは、昔一度だけクラブで会った男だった。年齢は20代後半くらい。ブランド物を身につけてはいるが、いわゆる“半グレ感”は薄い。ストーリーには居酒屋、高級レンタカー、シーシャ屋。歌舞伎町によくいるタイプの男だった。
「今、金困ってる?」
その一言から話は始まった。
現在、匿名・流動型犯罪グループ、通称「トクリュウ」は、かつてのような露骨な“闇バイト募集”を減らし、知人経由やSNSのDMを使って人を集めているという。
取材した20代男性のA氏も、「最初は完全に副業だと思っていた」と話す。
「“荷物受け取るだけ”“危ないやつじゃない”って言われました。むしろ普通の仕事紹介みたいな感じでしたね」
やり取りは途中からTelegramへ移動した。
送られてきたメッセージは、想像していた“裏社会”のものとは違った。
「13時に新宿駅西口集合でお願いします」
「到着したら連絡ください」
「本人確認書類ありますか?」
淡々とした業務連絡。文面だけ見れば、派遣会社の担当者と大差ない。
だが、A氏が実際にやらされたのは、特殊詐欺グループの“受け取り”だった。
現在のトクリュウは、昔の暴力団のような上下関係ではなく、“分業型”に変化している。募集役、送迎役、指示役、回収役が細かく分かれ、互いに顔も本名も知らないケースも珍しくない。
「組織というより、違法な業務委託って感じでした」
A氏はそう振り返る。
実際、指示役にも“怖い人”という印象はなかったという。
「ずっと事務的なんですよ。“感情”がない感じでした」
数回“仕事”をしたあと、A氏は怖くなり、連絡を絶った。
すると翌日、Telegramにメッセージが届いた。
「どうしました?」
「飛ぶなら先に言ってください」
「紹介者に確認入ります」
脅迫のような言葉は少ない。だが、その事務的な圧力の方が逆に不気味だったという。
「怒ってるっていうより、“部品が消えた”みたいな扱いでした」
今のトクリュウが厄介なのは、犯罪が“裏社会”に見えないことだ。
連絡はDM。集合は駅前。やり取りはスマホだけ。しかも相手は、映画に出てくるような反社ではなく、どこにでもいる若者にしか見えない。
だから境界線が曖昧になる。
「気づいたら抜けづらくなってたんですよね」
A氏はそう話した。
今夜もSNSのどこかでは、「案件あります」「動ける人募集」といったメッセージが流れている。
それは一見すると、普通の副業募集とほとんど変わらない。
違うのは、その先で誰かが騙され、誰かが使い捨てにされているということだけだ。


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